「借金」という言葉には、多くの方がネガティブなイメージをお持ちかと思います。

個人的な借金は確かにそうなのですが、これが事業となると必ずしも悪いものではありません。

無借金経営の方が良いとういう話も聞きますが、そこには大きなリスクもあります。

私は会計事務所以外にも一般企業の経理に勤務していたことがあります。

無借金経営を良しとする企業と、融資をどんどん受ける企業のどちらの経験もあります。

無借金経営を理想としていた企業の方では、一般に行う長期的な借入はしていませんでしたが、当座貸越という制度を使っていました。

これは、銀行から短期で借りて数日で返済する、ということを繰り返すことが出来る制度です。

月末に合計1億円の支払が必要だけどキャッシュが足りない場合、限度額の範囲内で足りない分をすぐに借り支払に回します。

そして、その月末に売掛金も入金されるので、その入金された分で2~3日後に返済するというものです。

一時的に借入はしますが、その借金は数日で消えてしまいます。

それを毎月繰り返していくような形です。

これは手続き的にも簡単で、借りたい額を書いた紙一枚を銀行の担当者に持って行くだけですので、月末は毎月銀行に行っていました。

銀行側としては限度額いっぱいまで借りてほしいので、その月の借入額が少ないと担当者の方から冗談っぽく「もっと借りてもらっていいですよ」とよく言われていたのを覚えています。

もう一方の、融資をどんどん受ける企業の話ですが、キャッシュがないということではなく、借りれるときに借りておき、手元には常に十分な資金を保有しておきたいという考えでした。

ある程度大きな企業ということもありましたが、いくつものメガバンク、地銀、信金と取引があり、それぞれの金融機関から何本もの借入がありました。

それぞれの企業、経営者によって考え方は違いますので、企業の形も色々あると思います。

今回は無借金経営のリスクについて少し書きたいと思います。

最大のリスクは、借りたい時に借りられず、最悪の場合は倒産・廃業してしまう危険があるということです。

赤字では会社は潰れませんし、個人事業も廃業ということにはなりません。

キャッシュが尽きたときにそれが起こります。

いつもは自分のお金だけで回せていたものが、何かのきっかけでそれが出来なくなる可能性もあります。

最近ですと、コロナもその1つです。

コロナの場合は、なんとか銀行も貸してくれましたので、そこまでの事態は避けられたかもしれません。

ただ、いつメインの取引先がなくなるか分かりません、急に取引が停止される場合もあります。

災害にあう可能性もあります。

そういった緊急事態の時に、手元に十分な資金があれば最悪の事態は避けられます。

精神的な余裕を保つことも出来ますし、対策を考える時間を確保することも出来ます。

問題は、いざ必要となった時に借りられないことです。

経営状態が悪い、悪くなっている、これまで取引もなく付き合いもない、信用できるかどうか分からない、緊急事態のときに貸して返済してもらえるか分からない、こういったリスクが大きい状態ではなかなか銀行は貸してくれません。

そういったときのために、手元資金に余裕があっても日ごろから借りて返済実績を作り、銀行との信頼関係を作っておく必要があります。

利息は払う必要がありますが、いざというときのリスクヘッジとして、事業に必要な保証料と考えるとそう高くはありません。

日頃から資金が十分であれば、突然大きな案件がきたときや、設備投資する場合にもすぐ対応することが出来ます。

現金がないとこれらのチャンスを逃してしまう可能性もあります。

また、利息を支払うことで時間を買うという考えも出来ます。

特に事業を始める場合など、1年お金を貯めてからと考えるより、融資を受けることでその1年分の時間を買うことが出来ます。

創業融資は他の融資に比べて圧倒的に借りやすいので検討する価値はあると思います。

借金は事業において悪いものではありません。

個人事業者や中小企業では、上手く付き合い活用することで将来の大きなリスクを減らすことが出来ます。